多数の分子を、種類、数、並び方に分布を持たないように精密に組織化することで、高機能な分子組織機能の発現が期待できます。例えば、各種アミノ酸が鎖状に正確な配列で連結し、規則正しく折りたたむことによって、超高活性、超高選択性の触媒である酵素になります。また、DNA鎖上に数十億個の核酸塩基が正しい配列で並ぶことにより、ヒトを作る設計図になります。一方、多数の分子を集める方法、例えば結晶化を例に取ると、空間的に分子を規則正しく並べることはできますが、異なる分子を目的に合わせて並べることには適していません。
そこで、我々は、DNAの二重らせん構造やペプチド、分子配列化に適した超分子構造を利用して、分子精密配列化、精密空間組織化の方法論を作っています。例えば、一つ一つが極小の磁石のように振る舞う金属錯体を精密に並べることで、磁石としての性質であるスピンの向きを制御することに成功してきました。また、電極の表面に分子の落とし穴を作り、フラーレンを規則正しく並べることなど、分子の集団を扱う化学ではなく、個々の分子を扱う新しい化学の素地となる研究も進めています。このような研究から、新しい分子磁石、分子素子、分子メモリー、テーラーメイド触媒、分子機械などの開発へ展開しようと考えています。
Reference
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